はなめも。~花屋のメモ帳~

現役フローリストが語る花と花屋のあれこれ。初心者向けにわかりやすく書いてます。花生活を始めませんか。

あの子はピザが好き。

 

「今日の朝ごはんは、ピザよー♪」

 

当時、私の住む地域には【ピザ屋さん】というお店が無く、もっぱら口にしていたのは母親がパン屋さんで買ってくる【ピザパン】と、そして、トーストの上に ピーマンとスライスしたウインナーを乗っけて、チーズを散りばめて焼いた【ピザトースト】だった。そういえば玉ねぎも乗っていたかもしれない。

 

味付けはケチャップのみ。ダイナミックな味付けに、アメリカンなスピリッツを感じていた。

 

つまり朝食だったわけで、味噌汁と目玉焼きを脇に従える朝の主役だった。月に一度くらいしか姿を見せないカリスマは、私の期待を裏切ったことが無い。

 

そして、それが私にとってのピザであり、恐らく多くの同じ地域に住む同級生の仲間にとってもそれがピザだったと思う。

 

「ピザって10回言って。」

「ピザピザピザピザ…ピザ!!」

「じゃあ、ここは?」 「ひざ」 「ブッブー、ひじ でした♪」

 

幼い頃の私にとって【ピザの思い出】といえば、当時好きだった女の子に、こうしてからかわれた事が一番の思い出と言える。

  

私の事をからかった あの子は、私がピザを連呼している時、頭にはどんなピザが思い浮かんでいたのだろう。きっとアメリカンな【ピザトースト】が頭に浮かんだに違いない。

 

 

 私が本物のピザに出会ったのは高校生の頃だ。たまたま家に誰も居ない と言う友人の家に泊まりに行った際に、晩御飯を何にするかの会議が始まった。結局あれこれ話が脱線してまとまらなくて、その末に友人がつぶやいた一言がきっかけだ。

 

「ピザの出前でも取るかーー」

 

「・・・マジで?」

 

戸惑う私を横目に友人が何やらチラシを出してきた。それは、数年前に出来たピザ屋さんの、ひたすらピザが写っているチラシだった。配達区域がギリギリ届かない我が家には、まだ無縁で羨ましくもあった。

 

そして友人は言った。

「どれがいい?俺、ピザの出前とか取ったこと無いし、こういうピザ屋のちゃんとしたピザって食ったこと無いんだよね。」

 

羨ましさが嬉しさに変った。そして【我が家のピザトースト自慢】をしながら、ピザが届くのを待っていた。玄関のチャイムが鳴った時に、平静を装って配達のお兄さんと会話する、友人の声が頼もしかった。

 

 

  友人の部屋の小さな机の上に、お皿と大きな箱が二つ積んである。しかし薄い。なんだこれは。まるでホールケーキを開ける時の様なワクワク感が私に押し寄せる。

 

一人一枚ずつ。・・・どう考えても大きい。いや、いける。

 

そして、私のワクワク感を包んだ箱がついにふたを開けた。

 

写真では見たことのあったピザ。四角じゃない、丸い。肉とチーズ、そして生地の香り。見たことない具材達。箱に詰まっていた香りが一気に解放される。

 

箱を開ける前から薄っすら漂っていた香り。その香りがハッキリと姿を現し 私の脳裏に焼き付いてくる。濃くてまったりとした香りが食べ盛りの食欲を刺激する。それは朝食のピザの香りと比にならない。

 

そして見た目が華やかである。私の食べてきたピザには乗っていない具材が見事に散りばめられている。黒い実の様なものは、味の想像も付かなく、好奇心を刺激した。

 

畳の部屋、殺風景な景色が、色鮮やかなピザによって 急に陽気で賑やかな世界観へと変わっている。

 

まるでテーブルに花を飾るようだ。さあ、パーティーの始まりだ。

 

たまらず友人と手に取ろうとする。

びよーん。これだ。 びよよーん。これは!? びよよよよーん。なんと!!

 

私の夢に見ていたチーズがとろり。これが私の想像を遥かに上回っていた。思わず、ピザの先端の細い方の具が下に落ちる。

 

すかさず友人が手を伸ばす。OK、落ち着け。まだまだ沢山ある。そいつはお前にくれてやる。

 

友人が私のピザを一切れ手に取って、「食べていい?」と聞いてきた。さっきのこぼれた具材を、わざわざ乗っけたピザを持っている。

 

「ああ、いいよ。お前のも一切れちょうだい。」

 

こうしてピザパーティーが始まった。何度も話してきた仲だが、いつもより会話が弾むのは親が出掛けているからだけではない。海外の食文化、パーティーの雰囲気に心が大きくなっているからだ。もっと言うと、

 

「ピザってさぁ、こうやって 陽気にノリノリで食うもんだろ!?」

 

そんな感じだ。それが一番おいしい食べ方と信じてきた。郷に従えという言葉の意味を知る。パーティーの雰囲気は壊したくない。

 

友人のピザは更に豪華だった。もはやピザ生地という名の巨大な戦場。湯気立つ戦場から、様々な香りがひしめき合う。まばらに、しかし どこか整然と散りばめられた具材という名の戦士達は、今か今かと戦いの時を待ち詫びている。そして、

 

「大正解。」 友人の掛け声とともに、戦は始まった。「これ、正解だったわー」自分の選択が正しかった喜びと共に、嬉しそうにピザを噛みしめていたので、たまらず私も参戦した。

 

 

 そんな中、話はやはり思春期。女子の話になった。タイプの芸能人や好きな女子の話で盛り上がる中、突然友人が思い出したように言ってきた。

 

「ピザって10回言って」

私は思わず反射的に、

「それ知ってるよ」

と言った。残念そうな友人。しかし、そのあと驚きの言葉が出てきた。

 

「昔好きな子をさ、これでからかった事あるんだよね。そうしたら顔真っ赤にして。笑ってくれると思ったのに」

 

ハッと、我に返った。私がピザを連呼している時に、あの子の頭には何が浮かんでいたのだろう。ピザトースト?ピザパン? まさか・・・。

 

「俺も、好きだった子に、からかわれた事があるんだよねぇ。」

ハッと、友人のピザを持つ手が止まる。

 

「その子の名前ってさ・・・」

 

「うん、大正解。」

 

そのあと二人で爆笑して、「ピザピザピザピザピザ・・・!!」と、何度も叫んだ。こんなに楽しく食べ物を食べたのはきっと初めてだった。どっちが速く言えるか競ったりもした。

 

 

「今日の朝ごはんもピザだよー♪」

次の日の朝は、生まれて初めて本物のピザを朝食にした。すっかり冷めていたが、温めれば意外にいける。トースターからは、紛れもなく本物のピザが出てきた。しかし、友人作の インスタントの味噌汁には合わない。ピザパン、ピザトーストの偉大さを痛感した。

 

 

 私の中で、今でもピザはパーティーに花を添えるもの。たくさん食べてきたけど、どれも楽しい時ばかり。不思議と会話が弾む、魔法の食べ物。きっと多くの人が、

 

「ピザってさぁ、こうやって 陽気にノリノリで食うもんだろ!?」

 

心のどこかで、そう思っているに違いない。いつも明るくて、お喋り大好きだったあの子もきっと、ピザが好き。

 

友人も私もピザが好き。

 

以上、私がピザを食べてハットしたお話でした。