今週のお題「おとうさん」
私はフローリストで、花を扱う仕事をしています。普段お客さんからのリクエストを形にして、喜んで頂くのが私の生業なわけです。
しかし、時としてお客さんの注文ではなく、私からのプレゼントとしての花を作ることも有ります。
友人や知人、取引先、会社の同僚の冠婚葬祭など、年に数回はあったりします。
それってつまり、リクエストや要望が全くない花束を作る時があるわけです。
普段と違うのは、完全に自分の感性で作る事。これが、実に困る、迷う、照れる。
まあ、お悔やみなんかは条件と言うか、常識みたいなのがあるので、限られた選択肢にはなるのですが。
若い女の子が結婚した時や、友人へ何かの御祝いなど。なんか、すごい花を作らないといけない感。変に自分にプレッシャーが掛かるんです。
お客さんの注文とは違うプレッシャー。優劣はもちろんないですけど。どっちも一生懸命作るのは、大前提です。
そんな私は社会人になって、初めて自分の親父に、父の日の御祝いとして花束を贈る事にしたんです。
深い理由は無いですが、いつも食べ物やお酒だったので、そういえば、花束ってあげたことないなーって、そう思ってからあれこれ考えてるうちに、ちょっと驚くかなっていうのと、リアクションが気になってきたんですよね。
私の父は、よくあるパターンでしょうか。何か誕生日やお祝いの時に、欲しい物を聞いても『特にない』の一点張りです。それが口癖のように毎回言われるんですよね。
プレゼントをあげた際は、普通に喜んでくれて、その後も感想を話してくれます。『去年はあれだったな』と言ってくれたりして、結構長く覚えてくれて。
気を遣ってくれているんだなーって思ったりします。
そんな父へ贈る花束。何が良いだろう。これは非常に悩みました。
思えば、親父の好きな花はもちろん、色の好みや好きな雰囲気も知らない。いや、なんなら無いかもしれない。
車はいつもシルバーとか白とか。買取が高くなるとかいう、よくわからない理由で。
洋服は母親が適当に買ってきて。
骨董品や絵画にも興味なし。強いて言うなら、、スポーツカーが好き。乗っては無いけど、雑誌とか見てる。野球も好き。昔は高校球児だった。
ああ、麻雀が好きで、よくゲームしてるな・・・。
うん、全くわからん。きっと母親に聞いても、何でも良いっていうだろう。
そこで考えました。久しぶりに親父の事を。いつも仕事で家に居なくて、休みの日は家でゴロゴロ。出掛ける時は運転係、家族の為に何も言わずに黙々と働いていた父。
プロ野球の番組だけは譲ってくれなかった親父。今は定年退職して、高校野球も見るようになった。
部活動を決める際も『自分で決めろ』
進学の時も『行きたいところが一番いい』就職も自分で決めた。
そしてもう一つの謎の口癖『怒ったら負け。何も変わらないし、どっちも疲れるだけ』
それで上手くやって、後で笑えばいい。
そういえば、一回も怒られたことが無い。母親には随分と怒られたけど。
たまに、ボランティアで小学生の通学路に立つらしい。最近は健康に気を遣って、時々歩くらしい・・・。
残念ながら、花の選択に繋がるような事は一切思い浮かびませんでした。でも、私の頭の中にはもう少し、もう一歩で、何かが掴めそうな気がしてきたんですよね。
あれこれ父の事を考えているうちに、自然と思えてきた感情。父の様々な一面を振り返って思った事。ある意味それは、父の日の在り方かもしれない。
『元気でいて欲しいなあ』
私の中ではやはり優しく、強い父親。感情を押し込んで、上手に振舞う事の出来る人。しかし恐らく、親父には悪いが。
その生き方は疲れる。
思えば、小さい頃はよくキャッチボールをしながら、昔は高校野球のピッチャーだったと話してくれた。幼い私にグローブを買ってくれた。
魚釣りを教えてくれて、よく連れて行ってもらった。今は私が連れて行く。
怒ったら負け。これは私も同じ。口調や態度で伝えるのは大嫌い。
決して何かを押し付けられたわけでは無いけど、父から受け継いだものがきっと沢山ある。残念ながら、私は野球はやっていないが。
きっと気苦労の多かった人生。もしかしたら、私に対して言葉を呑み込んでいた事も、たくさんあったかもしれない。
怒ったら負け。でも、そのあと本当に笑えていただろうか。
笑えなかったこともたくさんあったんじゃないか。
やはり繰り返し思う。元気でいて欲しいと。
私が『忙しい』と言うと、『一番きついのは、何もする事が無い事』と言ってくれる。
頑張れではなく、そんなもんだ。まさに父らしい言葉。
そんな父に、私が選んだのはヒマワリの花束。元気に咲く、ちょっと早めの夏色。理由は元気な感じにしたいのと、親父でも知っているだろう。そんなところ。
まあ、後は夏と言えば甲子園。夏らしい花を飾れば、気分も高まるかな、なんて。
いつもは自分から花をプレゼントする時は、相手の好みにピッタリなものを探すのに本当に苦労していました。ですが、今回は自分の気持ちを相手に伝えたい。
これって、お客さんの気持ちになれた感じ。誇張して言うと、もう一人の自分が注文に来た。なんて思えてきたんですよね。
いざ花束を渡す時、何て言おうか。私はいつもお客さんに
『花束と一緒に届けられるメッセージが一番喜ばれますよ。その気持ちに花束を添えるんですよ。』
なんて言ってますが、いざやるとなると、なかなか難しい。結局私が言ったのは
『これ、父の日の御祝いに』
『これ、お前が作ったんか?』
『そりゃ、そうでしょ。元気な色味にしといたわ。』
父は花束を見つめ、『ほーん、そうか。ありがとう。』
ほーん、そうか。って、なんなら今までで一番そっけない返事。まあ、どっちも、なんか恥ずかしかったんでしょう。
奥から母親が花瓶を持ってきて、飾ってくれました。
そしてしばらくして、お茶の時間にふと、父親に言われたのが
『仕事、上手くいってるのか?』『ああ、忙しいけど。それなりに。』
『ほんで、仕事は楽しいか?』『ああ、大変だけど、それなりに。』
『それが一番ええ。』そう言って笑う父。
そして、ふいに花瓶の方を見て、
『もうヒマワリが出てるんか?』
『最近は年中あるよ。』
『ほーん。そりゃ、良い事だな。』
これが親父たる人間の普通のリアクション。過度な反応は期待しない。
社交的ではなく、どこまでもリアルな感想。きっと小さい子が渡したら、こうはならない。
私の中で大きく変わったことは、相手の欲しがる花ではなく、自分があげたい花を選ぶ事も大事。そういえば、このブログにもそんな事を書いたことがあります。
いざ自分の立場に立つと、忘れるものですね。
何となく、お客さんの好みや考えを形にするのが仕事と、どこか割り切っていた自分が居ます。しかし、自分がお客さんとして花を買った事ってあったかな?
親父に花束を渡す事を通して、改めてお客さんの気持ちや考え方、また実際に受け取る人のリアルな反応と、渡した人の気持ちを知る事が出来ました。
私は今でも、もっと人の手から人の手に花が渡ると良いな。と思っています。
しかし、案外照れるな。なかなかハードルが高いぞ。と思いました。
夏になると、ヒマワリがたくさん咲く畑が家の近くに有ります。なんとなく思い出して、なんとなく恥ずかしいながらも、思い出してくれたら嬉しいです。
私はヒマワリを見るたびに、『ほーん、そうか。』を思い出して、クスッと笑っていたいです。