はなめも。~花屋のメモ帳~

現役フローリストが語る花と花屋のあれこれ。初心者向けにわかりやすく書いてます。花生活を始めませんか。

芸術を完全に舐めていた小学生と、芸術に悩む大人

今週のお題「秋の空気」

秋の気配を感じると決まって思い出すことが有ります。良い事であり、あまり良くない事でもある。

 

出来事というか、もはやハプニングかもしれません。それは小学校の写生大会で特選を取った事です。

 

親を始め、先生や周りの生徒にも「おめでとう!」と言われましたが、誇らしく思ったわけではなく、複雑な気持ちになった事を今でも覚えています。

 

作品名は【柱の大きなガソリンスタンド】

 

そのままです。私の画力では、そうなった。まず最初に建物の軸を書こうと思い、柱を書いたら異常にに太くなっちゃった。

 

まあ、ここまでは、良くある話…だと思うのですが。

 

その後がマズかった。色塗り。パレットも筆もカッチカチ。絵の具のチューブの蓋が緩んでて、無理やり押してみたら、くしゃみの様に勢いよく飛び出す始末。

 

ええい、こうなりゃ指だ。指で塗っちまえ!!

 

審査員のコメント

【柱が非常に力強く描かれている】

 

私のコメント

【大きなガソリンスタンドを、しっかり支えている柱を描きました】

 

多分、他の子と着眼点が違う。ガソリンスタンドを見て、この生徒は一生懸命スタンドを支える柱に着目したんだねって思われた。

 

指で塗るという技法も評価されたと思う。多分それがあってこその特選だったと思う。

 

少年は、力強さを出すために指を使った。とまあ、そんな感じだと思う。

 

家で母親に本当のことを話した。だって、市内の大きな建物に飾るって言うんだから、なんかヤバい、バレたらヤバいって思って。

 

今思えば、「狙ってやった。」「意図してやった」と言えば良かったのかもしれない。

 

その大きな建物で母は私の絵を見て笑いました。『あんたらしい作品だね』そう言って笑っていました。それでも、おめでとうと言ってくれました。

 

その時の私は幼いながら、

『芸術ってこんなもんか。』

 

そんなことを思ったのを覚えています。後付けのタイトルが生んだ喜劇。審査員の先生、本当にごめんなさい。

 

この真実は隠す必要がある。色んな人の為に・・・!

 

 

あれから時は経ち、私は今、フローリストという肩書で仕事をしています。アート何て呼べるような立派な仕事では無いですが、芸術を理解している方もたくさんおられる業界です。

 

秋は花展の季節。試行錯誤された、素晴らしい作品が溢れています。そんな作品を観るといつも思う。

 

『芸術って難しい』

芸術を舐めていた少年は今、大人になってその事に気付きました。

 

私は花展には出ませんが、やはり花を作る事に対して行き詰まる事も多々あります。

 

なんかおかしいなー、なんでだろう。そう思うたびに嵌っていく負のスパイラル。そんな時は、一度忘れて時間をおいて、新しい気持ちで見てみる。

 

すると、新しい事に気付く。広く全体を見れば、違和感やベターな答えが見えてくる。

 

一度でも良くないと思ったら、そこが気になる。気になる所にロックオンされてしまう。そこを脱出するなら、やはり一度忘れる事。

 

秋の空気は、意図せずとも、それを与えてくれます。新鮮な空気が多い。天気も気温もコロコロ変わるから、それに合わせて空気も、人の心も当然変わります。

 

まさに芸術の秋?本来の意味は知らないけど、同じ場所でも、さっきの景色と違う景色があったりする。「暖かいなー」と「寒い!」を繰り返したりする。

 

多分、「ダメだこりゃ」と、「いいんじゃない?」もきっとそうだと思う。

 

私の傑作【柱の大きなガソリンスタンド】がそうで有ったように。

 

私が指で塗りながら、「なんか良い感じになって来たぞ?」そう思えなかっただけでしょう。

 

なんか記憶も曖昧で、どんな感じだったかな?今度実家に帰ってみよう。そして、絵を見てみよう。

 

今なら、少しは良く見えるかもしれない。

審査員のコメントは、もしかしたら私に対するメッセージだったのかもしれない。

 

全部見透かされていて、クスッと笑いながら特選を付けてくれたかも?

 

評価されたのは私の絵なのか、タイトルなのか?それとも、四苦八苦する小学生の姿なのか?

 

芸術を舐めるな

 

きっと今、あの絵を見たらそう聴こえて来るに違いない。

 

納得いかない時は、その場ですぐに手直しするのではなく、その場で答えを探すのではなく。

 

ちょっと時間を置いて。秋の空気を吸って。もう一度向き合って。

 

そんな事を教えてくれたガソリンスタンドと、審査員の方と、相変わらず花の仕事で汚れてしまっている自分の指に感謝です。

 

芸術って、こんなもんかな。